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【事例レポート】ゲーム業界を変革する「クラウドネイティブな CI/CD インフラ」とは 〜バンダイナムコスタジオにおける製品開発環境クラウド化の試み〜

バンダイナムコスタジオは、バンダイナムコグループに所属している開発会社であり、バンダイナムコグループの掲げる「世界で最も期待されるエンターテインメント企業グループ」というビジョンの実現を目指す、自立型のクリエイター・エンジニア集団です。

シンガポールとマレーシアにも主にビジュアルアートを担う子会社を展開しており、ワールドワイドなメジャータイトルを創出することを目標に、さまざまなプラットフォームの特性に合わせたソフト展開やスマートフォン・SNS 市場に対応したコンテンツを提供しています。

同社は新型コロナウィルスを機に製品開発のクラウド化を推進。近年ますます複雑化、大規模化しているゲームの開発環境を支えるクラウド ネイティブな CI/CD インフラの構築に取り組んでいます。本稿では、同社のクラウド導入の背景や、クラウド化推進を通して獲得してきた知見、今後クラウド化を検討する企業に向けたメッセージなどをご紹介します。

株式会社バンダイナムコスタジオ
技術スタジオ ネットワークシステム部 ネットワークストラテジユニット
八重樫 剛史 (やえがし たけし) 氏

コーポレート統括本部コーポレート本部 総務ITサービス部
ITサービス企画課ITサービス企画チーム アシスタントマネージャー
熊本 龍馬 (くまもと りょうま) 氏

コーポレート統括本部コーポレート本部 総務ITサービス部
ITサービス企画課ITサービス企画チーム
長藤 友厚 (ながふじ ともあつ) 氏

■コロナ禍を契機としたオンプレミスの開発環境からの脱却

バンダイナムコスタジオでは、コロナ禍以前から、同社の目指す「ワールドワイドなメジャータイトルの創出」のためには、従来のオンプレミス環境では不十分という認識があったそうです。

「グローバル規模で技術力の高いクリエイターを採用したりコラボレーションをしたりしていくことを考えると、門前仲町の本社オフィスに出社しなければ開発できない環境は打破していかなければいけないというのは、社内の共通認識でした」(熊本氏)

そんな状況下で長年社内のクラウド化推進に携わってきたのが、八重樫氏と社内の有志、そしてそれをサポートする熊本氏や長藤氏ら IT サービス企画チームです。

「クラウド環境でもこれまで同様のクオリティでゲーム開発環境ができる技術はすでに確立されているので、その導入を進めることが私たちのミッションでした」(八重樫氏)

ただ、旧来のオンプレミス環境での顔を突き合わせた開発体制を好むチームがほとんどだったうえに、ただでさえ少ない人的リソースを割くわけにもいかず、歯痒い日々が続いていたと言います。

そんなときに訪れたのが、新型コロナウィルスの世界的な流行でした。緊急事態宣言が発出され、バンダイナムコスタジオでも、どうしても出社しなければいけない場合を除いて全社員が在宅勤務を行うことになりました。

このときに功を奏したのが、数年前から構築を進めていたリモート ワークのためのインフラだったそうです。政府が東京 2020 大会中のリモート ワーク実施を呼びかけた「テレワーク・デイズ」キャンペーンに参加していた同社では、コロナ禍に先んじて VPN 経由でオンプレミスのリソースにアクセスできる環境を整えていたのです。

こうしてスムーズにリモート ワークへ移行できた同社では、現在も 9 割近いリモート ワーク率を示しており、以前はリモート ワーク時に必要だった申請が出社時に必要となる、逆転現象が起きているそうです。

怪我の功名とも言える状況の変化で一気にリモートでの開発体制が定着したわけですが、八重樫氏はじめクラウド化を推し進めてきたメンバーは、これを機に、さまざまなリスク要因や二歩三歩先の未来を見越した「開発環境のクラウドネイティブ化」を進めることにしました。

前述のとおり、現在は主に VPN を利用してオンプレミスのリソースにアクセスして開発を行なっている同社ですが、境界型セキュリティモデルに頼るオンプレミス環境がマルウェア攻撃などへの脆弱性を持っているのは広く知られているところ。「今後は Azure AD による ID 管理の仕組みの導入を予定しています。ゼロトラスト セキュリティを実現することで、より柔軟でセキュアな開発環境にアクセスできる環境を整えていきます」と熊本氏。そのうえで同社では、八重樫氏が旗振り役となって「クラウド ネイティブな CI/CD インフラ」の導入を推進しています。

バンダイナムコスタジオの IT インフラの状況

■クラウド ネイティブな CI/CD インフラとは

従来のオンプレミスの CI/CD インフラ

「まずクラウド ネイティブな CI/CD インフラとは、端的に言うとクラウドのリソースによるクラウドに最適化された CI/CD インフラです」と八重樫氏。「まず目指すべきはオンプレミスにリソースを持たないクラウド オンリーの状態です。ただ、単純にオンプレミス環境をクラウド環境に再現するリフト & シフトの手法だけでは問題が生じてしまいます」。すなわち、オンプレミスの物理 PC と比較して、クラウドの同一スペックの仮想マシンではシステム全体の性能が劣る場合が多く、さらに移行や運用のコストを考えると、スペックの高い PC を購入した方がコスト パフォーマンスが高いということになってしまいかねないのです。

「とはいえ…」と長藤氏。「ハイスペックな PC を何台も並べて運用するケースも多いのですが、故障のリスクもそれだけ上がってしまいますし、オンプレミスで仮想マシン環境を使うとしても常にリソースが逼迫している状況で、安定したパフォーマンスが出にくいんです。その点必要に応じて必要な分だけすぐに拡張できるクラウドのメリットの方が大きい」と、リスク低減や安定運用の観点からクラウドの優位性を感じているそうです。

クラウドにリフト アンド シフトした CI/CD インフラ

このジレンマを解決するための考え方としては、クラウドで性能を発揮するにはクラウド相応のアーキテクチャがあり、これまでオンプレミスでつくってきたシステムの知見をそのまま持ってくれば使えるわけではないと理解すること。「既存のインフラをクラウドに移植するのではなく、クラウドに最適化された機能やサービスを活用して新しいインフラを設計構築することが、私たちの考えている “クラウド ネイティブ” な CI/CD インフラです」(八重樫氏)

クラウド ネイティブな CI/CD インフラ (Kubernetes)

また、「クラウド ネイティブな CI/CD」という言葉で一般的に連想される、ジョブのコンテナ化と Kubernetes によるオーケストレーションのような技術的に高度な CI/CD インフラは、ベンダー中立であるという点ではよいのですが、それを構築・運用するには豊富な知識や経験を持ったエンジニアが多数必要という問題があります。「となると、インフラができるエンジニアが少ない私たちのようなゲーム開発業者にとっては、なるべくマネージドなサービスや SaaS を活用することが最適解になってきます」と八重樫氏。

一方で、バンダイナムコグループでは従業員のほとんどが Office 365 E3 のライセンスを所持していたため、ID 認証基盤として Azure AD がすでに存在しているうえに、普段からバンダイナムコスタジオの開発者が利用している Visual Studio サブスクリプションには Azure の無料クレジットや Azure DevOps の利用ライセンスといった特典があります。

これらの考察を元に比較検討を行なった結果、同社の開発業務にマッチする CI/CD インフラとして Azure DevOps を採用することになったのだそうです。

クラウド ネイティブな CI/CD インフラ (Azure DevOps)
クラウド ネイティブな CI/CD インフラの理想の追求

■バンダイナムコスタジオ社内におけるクラウド化推進の実態

とはいえ、すべてのプロジェクトをクラウド ネイティブな環境に移管するのは現実的ではありません。「これまではゲーム開発において CI/CD といえば Jenkins という共通認識がありました。それを Azure Pipelines に置き換えるとなると、スクリプトの書き直しなどかなりの手間が発生します。ですから当社では、すでに運用フェーズで収益を上げている既存プロジェクトに関しては、リフト & シフトのクラウド移行という方法を採用しています」と八重樫氏。

セルフ ホスト Jenkins CI からの卒業

ただ、新たにつくるものに関してはクラウド ネイティブな開発環境を選択してもらうべく、社内セミナーや定例会を開催して情報を共有するなど、地道な取り組みを行なっているとのこと。八重樫氏や IT サービス企画チームのメンバーがプロジェクトに入り込んでコードを書いてしまうこともあるそうで、日本マイクロソフトの協力のもと Azure のハンズオン セミナーを頻繁に開催するなど、クラウドに親しむ機会をなるべく多くつくるようにしているそうです。

また、費用に関しても工夫しており、IT サービス企画課でクラウド推進のための予算を確保して「プロジェクトでクラウドの検証をしたいけれど予算や申請に手間取るのは避けたい」といった要望を受けた場合には当課の予算で賄う形を取っているのだそうです。「これなら冗長な稟議なしでクラウド化を進めることができます。このやり方は他社の IT 担当部署の方にも参考にしてもらえるかもしれませんね」と長藤氏。

さらに同社では新入社員に向けたクラウドの啓蒙活動にも力を入れています。「新人研修では約半年かけてゲームの制作プログラムを実施するのですが、今年から Git リポジトリと CI/CD に Azure DevOps を採用して、クラウド ネイティブな開発環境を体験できるようにしました。これは大きな変化だったと思います」(長藤氏)。この経験をもとに、配属先のプロジェクトでクラウド推進を進める側に立って活躍してもらえれば、と期待を寄せます。

■クラウド ネイティブな CI/CD インフラを考える上でのポイント

クラウド ネイティブな CI/CD インフラを構築するにあたり、八重樫氏にいくつかのポイントをお聞きしました。まずはコンテナ化について。開発環境をポータブルに、少ないフットプリントで効率的につくれるのがコンテナ化の利点であり、「クラウド ネイティブといえばコンテナが主流だと思っています」と八重樫氏。「ゲーム開発でよく用いられる Unity と Unreal Engine に対応できるクラウド開発環境を実現することが私たちにとって 1 つのゴール。その分野でコンテナ化をうまく利用できるようにすることが、私にとって当面の目標の 1 つです」。

比較: VM vs. コンテナ

八重樫氏いわく、Unreal Engine のコミュニティは非常に先進的で、有益な情報が得られるとのこと。有志によって研究・開発されてきた Unreal Engine 開発環境のコンテナ化の手法が unrealcontainers.com (英語) で公開されています。またそれが Unreal Engine 4.27 より公式にサポートされるなど、ベンダー自身もクラウド ネイティブな開発環境の整備に力を入れているのだそうです。「私自身もこのコミュニティ サイトから得た知見をもとにして Unity や Unreal のプロジェクトの Windows コンテナによるビルドを Azure Pipelines でオーケストレーションする仕組みを公開しています。次のフェーズでは、社内のプロジェクトで実際に使ってみたいと考えています」。

またセルフ ホスト エージェントの活用については、「ゲーム開発の CI/CD パイプラインではアプリやアセットのビルドなどに多くの CPU 能力が必要なため、強力なサーバ上で動かすセルフ ホスト エージェントによるジョブ実行が重要になります」と八重樫氏。さらに、さまざまな OS や構成を持つ仮想マシンの適切なオーケストレーションでパフォーマンス向上とコスト削減を両立する必要があることから、「こうしたことを考えると、セルフ ホスト エージェントとして Linux と Windows の Azure 仮想マシンのオーケストレーションが可能で、macOS も正式サポートしている Azure Pipelines が私たちの目的に一番合致していると思います。個人的には GitHub Actions にも Azure Pipelines と同様のセルフ ホスト エージェントのオーケストレーション機能を期待しています」と、Microsoft による CI/CD サービスの評価とさらなる進化への期待を語りました。

■今後の課題と展望について

さて、ここまでバンダイナムコスタジオにおけるクラウド ネイティブな CI/CD インフラ導入の背景についてお聞きしてきました。今後同社としてどのような課題を持ってクラウド化を進めていくのでしょうか。

IT サービス企画チームの当面の目標は「クラウドネイティブなインフラをより使いやすい環境にすること」。長藤氏は、「今後増えてくる社外とのコラボレーションを想定して、セキュアな運用についても気にかけていきたいと思っています。また、エンジニア以外のアーティストやプランナーにもクラウドネイティブな環境を理解してもらえるような取り組みを続けていければ」と、より安全で使いやすいクラウド環境構築への決意を語ります。

そしてクラウド化推進の旗頭である八重樫氏は、「今後ゲーム業界においては、グローバルなレベルで開発者の獲得競争が起きるはず。それに備えて、世界中どこにいても当社のゲーム開発に参加できるように、地理的、言語的な制約のないクラウド開発環境を推進していくことが肝要です」と述べ、「私も、技術面だけでなく、ステイクホルダーとの対話や調整という役割を通してクラウド化を推進し、会社の業務をすべてクラウドでできる状態を目指したい」と、今後の展望を語ってくれました。

また、クラウド化を進めるには業界を横断した情報の共有が大切であり、「私はオープンソース カルチャーを愛しているので、会社が許す限りさまざまな情報を共有していきたいと思っています。皆さんがそれぞれ組織や個人で成し遂げられたことはぜひ共有してほしいし、そういう情報に触れられることを楽しみにしています」と、会社の垣根を超えた取り組みを期待する八重樫氏の言葉でインタビューは終了となりました。

■まとめに代えて

3 人の話で印象的だったのは、コロナ禍という大きな変化にひるむことなく、むしろ千載一遇のチャンスと捉えて行動に移した実行力と、できることはできる、できないことはできないと割り切る分析力。そしてオープン マインドでさまざまな情報を発信し、社内で理解を深めてもらおうとする熱意でした。

本文中で述べられたとおり、クラウド ネイティブな CI/CD インフラの導入はこれからのゲーム業界にとって必須条件であり、かつ決して高いハードルがあるわけではありません。八重樫氏は「当社のようなステイクホルダーの多いエンタープライズ企業より、ベンチャーや小規模な企業の方が容易にクラウド化を進められるはず」とエールを贈ります。

きっと、今回ご紹介した事例に勇気づけられた多くのゲーム関連企業さまがクラウドの恩恵を得て、その結果、私たちを楽しませてくれるエンターテインメントがたくさん生み出されるはず。私たち日本マイクロソフトも、その後方支援を続けてまいりますので、ぜひ気軽にお声かけいただければ幸いです。

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