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【SF作家・藤井太洋氏インタビュー】テクノロジーの未来〜人間はテクノロジーを人の幸せのために使うと信じたい

※ この記事は 2018年01月03日に DX LEADERS に掲載されたものです。

SF作家、藤井太洋氏は、元々はエンジニアとしてソフトウェアの開発に従事し、その後、SF作家として活躍するようになったという異色の経歴の持ち主だ。ロボット、AI、宇宙開発など、かつてはSF小説だけの夢物語だったものが、近年では現実化していることも多いことは誰もが知るところ。元エンジニアでSF作家というキャリアを通じて、テクノロジーの「未来」をどう考えているのか、うかがった。SF作家 藤井太洋氏

誰もがAIのプログラムが書ける時代

──藤井太洋さんがSF作家としてデビューしたのは2013年ですね。

正確には、その前年の2012に年に電子出版で『Gene Mapper -core-』を発表しました。その後、その『Gene Mapper -core-』を増補改稿して『Gene Mapper -full build-』を早川書房から刊行したのが2013年。それから専業作家になって今、丸5年が経過しようとしているところです。

──その前はエンジニアですね。

イーフロンティアでソフトウェアの開発を約10年、担当していました。その前はフリーランスとして、3Dソフトの「Shade」を使ってイラストレーションや建築パースを制作するなどの仕事をしていました。その関係から「Shade」の開発元であるイーフロンティアに開発本部長として務めることになったのです。

──ITの進化をどのようにお考えですか?

イーフロンティアでソフトウェアを開発していた当時から、ホビー用途としてのニーズが高い「Shade」をパッケージで販売するビジネスモデルが徐々に難しくなっていました。きっと私たちが「パソコン」と呼んでいるものは仕事をするための道具にまた戻って行くだろう、という予感はありました。

当時パソコンは、ホビーで使用する、メールを読む、webを見るといった生活を楽しむためのインフラという扱いでした。しかし、私としては生活のインフラとしてのツールは携帯電話みたいなものが取って代わるだろうと思っていました。その分、パソコンはビジネスツールに、より狭い定義では「開発のための道具」に戻って行くだろうと考えていた、ということです。しかし、生活のインフラとしてiPhoneが出てくるとは思っていなかった、というのは正直なところです。タッチスクリーン革命は本当に世界を変えたと思います。

──今はビジネスユースでスマートフォンを使うニーズも高まっていますね。
タッチデバイスだけでビジネスが完了する人はまだまだ少ないし、ビジネスがすべてタッチスクリーン、タブレットやスマートフォンに移行するとは思っていません。ビジネスでは物理的に大きなスクリーンが必要な場合もあります。ビジネスユースとしてパソコンは当分というか、まだ長い期間、使われると思います。

──作家デビュー前、デビュー後のITの進化はどうお考えですか?

デビューした当時、機械学習が一気に実用化されるようになったことに驚きました。実用化までにはもっと時間がかかるものと思っていました。現在の機械学習がインフラとして提供されている状況はすごく大きな進化だと思います。

例えば、文章を自然に読み上げるプログラムはAmazonやGoogleが提供しています。そんな機械学習のサービスだけで大抵の文章はそこそこ読み上げることができる。しかも、その機械学習のサービスは誰でも使える。

かつてはそのようなプログラムは誰にも書けなかったに等しかったし、1社、2社が独占して一部の人たちだけが使えるサービスでした。それが今や、20万人ものディベロッパーが同時に使うことも可能になっているんです。

しかも、プログラムの勉強をしていなくとも、「ちょっとプログラムを書いてみよう」と思って、Google Cloudのプラットフォームにログインして作業をするだけで20分くらいあれば、テキストを読み上げるプログラムは書けます。私も小説を書くときに読み方のわからない外国語をカタカナにする必要に駆られて小さなプログラムを書きましたが、その作業は10分位で終わりました。

それと、仮想化が一気に進んだことも驚きでした。かつてサーバーは「ラックに入ったモノ」でしたが、「時間で買うモノ」に変わりましたからね。

失われた30年の損失は大きい

SF作家 藤井太洋氏

──SF作家として未来を描く、ことに対してどのようにお考えですか?
私はバックグラウンドがソフトウェアの開発なので、そのアナロジーで捉えてしまう、ということはあります。その意味ではどのような技術でもすぐに現実になってしまうので、今までの未来予想とは違う、という気はします。

ひとりの天才科学者が唯一のテクノロジーを開発したり、どこかの政府が飛び抜けたテクノロジーを保有している、という設定は通用しない、というか現実的でない。

映画『ターミネーター』はハイテク企業サイバーダイン社が戦略防衛コンピュータシステム「スカイネット」を開発したことが事件の発端となりますが、現在ではおそらく同時多発的に2~30社が「スカイネット」を開発するでしょう。時間差があったとしても1か月くらい。1か月あれば20~30社のベンチャーが立ち上がって似たようなものを開発する。

──ひとりや1社を悪者を作れば物語ができる、わけではない。

時代の流れが速くて勘弁してくれ、と思うのが、特に政治というか文化の衝突の激しさですね。

テック企業の理屈や、国が動かしてきた政治的な正しさと人間の身体感覚がずれてきている、ということも感じます。

私は未来予想として、多くの場所で起こって行くであろう文化の衝突を、人々はどのように回避していくのか? これからもずっと衝突が激しくなり続けるのか? ということを考えることが多いです。

2016年に執筆した「第二内戦」(『AIと人類は共存できるか?』収録/早川書房)という小説はアメリカ合衆国が2つに分裂し、真ん中の18州が独立して別のアメリカを作る、という物語なのですが、まさに文化の衝突がテーマのSF小説でした。

──ITを活用した企業の取り組みには、生活を豊かにするサービスとは別に、グローバルな課題をITがどう解決できるのか? という方向もありますね。

例えば、地球温暖化に対する取り組みがありますね。ご存じの通り、モータリゼーション企業からはハイブリットエンジンや、EV車、輸送効率を上げるための自動運転などの形で、反応がありますね。ITはもちろんこの変革を支えています。

哲学も、地質学会で冗談のように口にされた「人新世」というキーワードに反応して意見の交換が始まっている。ところが、物語の世界はどうでしょう。今や人類が温暖化を招いた「燃焼」という原罪を突きつけられてるというのに、経済活動を行なっている人々を揶揄してばかりいるんじゃないか。そんな風潮にくさびを打ち込み、世界に目を向けさせることができるんじゃないか、ということが私の今後のテーマでもあります。

──グローバリズムの中での日本人の役割は?
この30年、経済が停滞していたために、日本人はグローバリズムに触れることができなかったと思います。

世界が本気で世界同士をつなごうとしていた90年代に、日本は経済バブルが弾けたため、世界から手を引いてしまった。そのため、つないでいる過程を見ることができなかったんです。

コンピュータで世界が変わる、インターネットで世界は変わる、ということを世界中の人々が本気で信じていた時代に、日本では経済が停滞していました。あの時代、世界中を飛び回ってインターネットで世界を変えようとしていた革命家たちと直接対話できなかったんです。

ようやく息をつけるようになった今、失敗した革命家たちを笑い、成功した企業を羨むのが私たちです。

──経済のバブルが弾けたため、そこにコミットできずに乗り遅れてしまったと。
インフラを担う政府や大手企業が頑張ってくれたおかけで致命的に遅れるということはなく、一部では主導するテクノロジーも生まれましたが、そこに物語がなかったことは不幸だったと思います。

──なぜ、日本にはビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズが生まれないのか? という話ですね。

単純に日本が不景気だったからだと思います。そういう余裕がなかったんでしょう。

最近になって新入社員を採用できるようになったという企業も多い。失われた30年は本当に大きいと思います。

そう思えるのは私がエンジニアとしてソフトの開発を通して、海外の企業や投資家、活動家やアーティストなどと直接、交流する機会が多かったことが影響しています。当時、コンピュータで世界に革命を起こそうという人々が何をしていたのかを知れたのはすごくよかったと思っています。

数年先が舞台の小説ならば、現実が追い付いてくる

──SF作家としてテクノロジーを追いかけて行くことにどのような苦労がありますか?
小説を書くために必要な情報はひたすら集めています。PCで原稿を執筆し、タブレットでレポートや論文を検索して見ています。1行を書くために1時間を費やして調べるということもよくあります。

例えば、未来のサンフランシスコのある地域を描いているとします。舗装のことを書きたい。メンテナンスが行き届かずにひび割れていると面白いだろう。そこで調べます。「修理するために使用する現在のコンクリートに相当する未来の素材は何だろう?」。

ネットを検索してみると現在、イスラエルのベンチャーがメッシュ型の新しい舗装技術を開発しているという情報を発見する。では、物語ではその舗装技術を使おう。じゃ、その技術を誰が使ったのか考えます。ライセンスを受けたアメリカの企業か──それでは面白くない。直接、イスラエルから技術者がやってきて、アメリカ人を雇用している方がいい。そんなふうに思考することで、今まで考えていなかった空白にどんどんピースがはまって行く。物語に厚みが加わって小説の完成度は上がって行きます。新しいテクノロジーを調べて物語を組み立てることで小説の強度が上がるのは間違いないですからね。

──その空想が本当になることもある?

当たらないことの方が多いですよ(笑)。

ただ言えることは、テクノロジーは必ず進化するということです。そして、どのようなテクノロジーが出てきてもそれを使うのは人間で、個々の人間はテクノロジーを自分の幸せのために使うのだろうと私は信じています。

──扱いやすいテーマというのはありますか?

現在のコンピュータとは違う、量子コンピュータを扱うのは楽しいです。量子コンピュータは今はまだ研究途中。何を書いても平気というか、自由に空想を膨らませることができる。どのようなことを書いてもまだ、許される(笑)。

──逆にテクノロジーの進歩が速すぎてテーマにできない、というのは?

古くなったらどうしよう、と感じたことはありません。ロボットというテーマにしても書き尽くされているように思うかもしれませんが、ロボットはお国柄があって面白い素材です。

例えば日本のロボットは関節にモーターを入れますし、多くのアニメやマンガでもそう描かれますが、アメリカのボストン・ダイナミクスのロボットなどは油圧。心臓部に強力なコンプレッサーを1台持ち、油圧で制御して動かす。関節にモーターがないから手足が細いわけですね。

心臓部にでかいエンジンを入れる、というのはアメリカ人ならではの発想かもしれません。エンジンを回すのが好きなんだろうなと思います。エンジンが中心にあるアメリカのベンチャーと、小さなモーターが中心にある日本のベンチャーでは文化の差が出るのは間違いないです。

フランスはマリオネット、操り人形の文化ですよね。ソフトバンクのPepperはフランスのアルデバランロボティクスが開発したものですが、ケーブルを内部に這わせて、引いて制御するでしょ。まさにマリオネットの発想です。国の文化が現れている。そのようなこともテーマになりえると思います。

──なるほど。それは面白いです。最後に今後の予定を教えてください。

2018年はいくつか小説を刊行できそうです。

角川書店から、東京オリンピックの会場敷地に働きながら学ぶ大学が出来て、そこを舞台とした青春小説が出ます。同じような構想をソフトバンクが言い出したので、現実に追いつかれたかと少しヒヤヒヤしました(笑)。

新潮社からは東京で核テロを行うテロリストの小説が出ます。日本人の元ISの核物理学者と日本に技術研修生として留学してきた中国人女性が東京で原子爆弾を爆発させるため、核テロを計画するという物語です。

──執筆に時間がかかると現実が追いつくこともありますよね。
数年先を舞台に小説を書くとどんどん状況が変わるので、それに伴ってチマチマと原稿を直さなければいけないので面倒なことはあります(笑)。

──ありがとうございました。

藤井太洋(ふじい たいよう)氏プロフィール

1971年、鹿児島県奄美大島の生まれ。国際基督教大学中退。ソフトウェア開発会社イーフロンティアに勤務しながら小説を執筆するようになり、2012年、電子書籍で『Gene Mapper -core-』を発表。7000部を売り、「2012年Kindle本・年間ランキング小説・文芸部門」で1位を獲得。2013年、『Gene Mapper -core-』を増補改稿した『Gene Mapper -full build-』(早川書房)で作家としてデビュー。2015年、『オービタル・クラウド』で第35回日本SF大賞、第46回星雲賞を受賞。第18代日本SF作家クラブ会長に就任する。

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