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儲けるための「働き方改革」〜マイクロソフトの20年間にわたる働き方改革の軌跡【セミナーレポート】

※ この記事は 2017年08月10日に DX LEADERS に掲載されたものです。

「働く、を変える日」-2017年7月24日、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府では、東京都及び経済界と連携し、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした働き方改革の国民運動を展開した。

2020年の7月24日は、東京オリンピック・パラリンピックの開会式にあたる。各国から関係者や、観光客が訪れることになるだろう。そのような状況で、都内の交通インフラは混乱してしまうとの予測もあるなか、2017年から7月24日をテレワーク・デイと位置づけ、在宅や自宅近くのサテライトオフィスなどで仕事をすることを推奨している。

このような政府主導の取り組みもあり、ますます「働き方改革」は注目を集めているのだ。しかし、「働き方改革」とはいったい誰のため、何のためのものなのだろうか。今回は日商エレクトロニクス株式会社が主催した、『儲けるための経営戦略!働き方改革の人事課題とIT課題の解決セミナー』から、日本マイクロソフト 小柳津 篤の講演を取り上げる。

仕事=出勤ではなく、仕事=物事が進捗すること

日本マイクロソフト 小柳津 篤
冒頭で触れた、テレワーク・デイは端的に述べると「オリンピック・パラリンピック期間中、各国から多くのお客様が訪れるなか、仕事の用事で23区には入ってこないでください」ということだ。ただ、休むわけではなく仕事はする。

「いつでもどこでもできるような仕事は、世のなかたくさんあるわけです。そういう人たちは、仕事=出勤ではなく、仕事=物事が進捗するという考え方です」(小柳津)

仕事=物事が進捗するために、本当にその場所に行かなくてはならないのかどうかを真剣に考えていく必要があるのではないか。日本マイクロソフトでは、全員・全業務、品川の本社ビルに行かなくとも、仕事を継続することを何十回も練習している。そして、現に何も困っていないというのだ。

「我々が何のために長い間、働き方改革をしているか。我々がやりたいのは、どうやったら会社が儲かるのか。これをいろんな方向から考えているわけですね」(小柳津)

日本マイクロソフトの働き方改革は20年も前から行われており、「いつでもどこでも」というコラボレーション改革が社内に浸透している。これは安倍政権の「一億総活躍、働き方改革、テレワーク」の形に似ている。

「マイクロソフトが仕事をしているIT業界は競争と変化が激しいです。マイクロソフト社は創立43年を迎えておりますが、長く生き残っているだけではなく、まだ成長しております」(小柳津)

マイクロソフトは、もはやWindowsだけが売り物ではない。Windowsはたくさんある商材のひとつに過ぎず、何かひとつの製品やサービスに依存しているわけではないのだ。ただ、事業領域を増やし、チャネル構造を厚くしているなかでも、意図的に増やしていないものがあるという。それが社員数である。当社の1人当たりの売り上げについて追ってみると、過去MS-DOSを扱っていた時代は20万ドル程度。Windowsを出した時代は30万ドル後半~40万ドル、クラウドにシフトすると80万ドルとなり、さらに変革を重ね1人当たりの売り上げが100万ドルに届くところまで来ている。これは、エンタープライズソリューションをやっている競争他社に比べて、圧倒的に良い数字といえるだろう。

「いろいろなチャネルを増やすことももちろん大事なのですが、そのうえで生産性の高い仕事をして、そこで生み出された人や時間を常にイノベーションにあてていることで、成長が続いています」(小柳津)

この成長に至る仕事とはどんな仕組みで進んでいるのか。日本マイクロソフトでは、「はやく決めて、はやくやる」ことを大事にしているという。

「はやく決めて、はやくやる」ために、定量可視化を徹底的に行う

意思決定のスピードを早めるために当社が徹底していることは可視化だ。可視化をする際に売上や利益、顧客数の推移など数値化しやすい項目と、従業員それぞれの所感といった数値化しづらい項目がある。定量化しづらい項目に関してはグラフに吹き出しなどをつけて、コメントを用いることが多いのではないだろうか。しかし、当社では意思決定に必要な情報からコメントを一切排除した。コメントを排除した理由は、コメント収集自体に時間がかかること、さらにそのコメントの内容が「まあまあ」、「あと一息」、「頑張ります」など、気持ちはわかるけれど事実が伝わりづらいからだそうだ。

だが、いろいろな物事は定量的に表現されていないことのほうが多く、コメントに相当する部分も完了基準を決めてデータを集める必要がある。そのため、決して簡単な道のりではなかったそうだ。これを当社は10年かけて進め、今や完全に意思決定に必要な情報は定量的に表現することを実現した。それにより、意思決定のクオリティとスピードは全く別物になったという。さらに、今は集まったデータをAIに取り込み、人間が意思決定をする前にある程度は機械が判断するところまできている。AIは研究室の枠から出て、実際のビジネスにおいても活躍しているのだ。

さて、可視化によって意思決定のスピードがはやくなったことがわかったが、決めたことをどのように展開しているのだろうか。
基本的に日本マイクロソフトではチームやプロジェクトに属し、誰かと必ず関わりながら難しいことにチャレンジしているというのだ。「いつでも、どこでも、だれとでも」、「さっさと仕事をする」ことが重要になっている。

会社に来る目的はFace to Faceで人と関係づくりをするため

働き方改革が叫ばれる昨今、テレビや新聞、雑誌などで時短が取り上げられるようになった。時短でよく取り上げられる事例が、勤務時間足切り型のアプローチである。例えば、19時になったらオフィスが消灯する、システムがシャットダウンされる、などだ。

「そのくらいのショック療法をやらないと社員が目覚めないというのは分かります。ただ、この足切り型のアプローチは、本質的な時間の短縮には繋がっていません。仕事は効率化されていないのですから。仕事をしなくてもいいとは言われてはいませんから、帰る途中ファミレスでサービス残業するとか、持って帰ってはいけないと言われている書類をカバンに詰めて家で仕事をするとか、結局水面下に潜るだけです」(小柳津)

さらに小柳津はつづける。

「時短に関しても、『さっさと仕事をする』というのは大切なことです。さっさと仕事ができて、社長から見たら生産性向上、従業員から見たら時短になります」(小柳津)

さっさと仕事をするために、チームメンバーやプロジェクトのメンバーを最大交流させ、経験や能力を最大化させて仕事をすすめるという考え方を日本マイクロソフトはしているそうだ。また、そういう取り組みからさまざまな取材を受けているが、取材内容は少し偏っているという。カフェや家、空港で働いているところがクローズアップされ、一部の方には「マイクロソフトの社員たちは、ネットの住民みたいな働き方をすることを、働き方改革といっているのではないか」と言われることもある。

「これは全くの誤解です。私たちがやりたいのは、ネットの住民になりたいのではなく、さっさと仕事を進めたい。我々は品川オフィスでface to faceで人と関わることをものすごく重要に考えています」(小柳津)

日本マイクロソフトは全員、毎日いつでもどこでも働けるにも関わらず、ほぼ毎日オフィスに出社しているそうだ。ただし、会社にはずっといるわけではない。社員がオフィスに来るモチベーションは、Face to Faceで人と関係づくりをするためである。困難な局面に遭遇したときや難しい交渉事をスムーズに進められるようになるために、オフィスに来ているのだという。

仕事を進めるということと出勤というのは、必ずしもイコールではないということを当社の社員は理解をして、それぞれが選択をしていると言えるだろう。

テレワークの制限を設けたところで生産性はあがらない

ここで、テレワークの議論をしている多くの日本企業が陥りがちな2つのポイントについて例を挙げていただいた。1つめは、テレワークは「どの業務・だれを対象にするか」の検討だ。多くの日本企業は、どのような業務だったら認めるのか、対象者はだれか、どんな手続きが必要か、など議論をしている。

「私たちもこの議論を15年前くらいにしました。やったからこそ言わせてください。生産性はまったく変わりません。かすりもしないと断言してもいいです」(小柳津)

そもそもの仕事のやり方が変わっていないため、このような議論を行ったところで企業の成長への期待値は低いのだろう、と小柳津は語る。

「さらに、介護中や育児中の人のためになっているかというと、あんまり期待できないです。ほとんどの社員にとっての、仕事=出勤の価値観を変えることなく、『あなたのための限定的なスペシャル特別プロジェクトです』という仕組みを作ったところで、本人たちは使いづらい」(小柳津)

仕事=出勤の価値観を変え、儲かるために誰でも使えるようにすることによって、結果的に介護中や育児中の方も救えるような仕組みになるのだという。そういった環境の方も、どこでも仕事が継続できるため私生活と仕事のバランスを完全にコントロールでき、プロジェクトに迷惑をかけることなく仕事を進めることができる。

もう1つは、働く場所の選択肢についてだ。

「制度的に在宅は認めてあげよう、しかし、心配事が多いのでモバイル環境はNG、など考えます」(小柳津)

こういうアプローチをするからオペレーションが煩雑になり、さらにはShadow IT(私用デバイスやソーシャルサービスを仕事で使うこと)を誘発するという。いくら会社が私用デバイスの業務利用を禁止しても、お客様からの問い合わせや、社内でサポートしなければならないときに出社するか、家にいても制限が多いために、私的デバイスでアポの調整をすることを若い人たちは良かれと思って仕事で使ってしまう。

一方で日本マイクロソフトは、さまざまな場所で社員が働くというのを前提に、社員をどのように守るかという制度・どう利便性と安全性を保証するかというシステムをひとつだけ持っている。ワークシナリオごとのオプションの必要はない。これは、社員にとっても非常にわかりやすいだろう。また、日本マイクロソフトでは電話を持っていないそうだ。品川オフィスに移転した際、1人1台ずつ配っていたビジネスフォンを全部廃棄したという。ただ、名刺には03局の番号が書かれており、ここに掛けるとSurfaceに繋がる仕組みになっているのだ。これは海外にいる場合においても同様で、国際電話料金がかかることもない。

会社が社員を守るために労務や情報管理を徹底

ただし、労務管理上、情報管理上、いろいろな懸念事項や心配事がある。「さぼっているのではないか?」、「逆に働きすぎないか?」、「新幹線やカフェで仕事をしてセキュリティ面は大丈夫なのか?」、こういった議論は当然のように沸き起こる。

そこで日本マイクロソフトでは、労務管理や情報管理も厳しくコントロールしている。社員は毎年コンプライアンスのトレーニングがあり、テストに合格しないと仕事ができない仕組みになっているのだ。ただし、社員にだけリスクを与えるのではなく、会社の管理レベルは社員のうえを行く。そうすることにより、社員も安心して使える仕組みになるという。

また、日本マイクロソフトでも近代的なオフィスに移転したり、高機能なテレビ会議を入れたりすることでコラボレーションが起こることを期待した。しかし、その結果は失敗に終わったそうだ。ものが揃っていたとしても、社員が活用しづらいなどの雰囲気があったら誰も使えない。だから、利便性とリスクコントロールを、トレードオフで考えがちになる。「こういう仕事だったら切り出せる」、「カフェはダメだけど家ならOK」など、制限をすることで何かを守ろうとするアプローチが、いくつかの会社の議論の中心にあるのだ。

「ただ、我々の経験上、安全性と利便性はトレードオフにするべきものではないです。なぜかというと、両方成立していないと、両方満たされないからです」(小柳津)

今の仕事は時間を投じても進捗することはできない

さらに必要なことは、企業文化を創り出すことだ。

「組織の習慣は、一夜にして変わらない。長年をかけて仕事=出勤、徹夜=がんばっている、会社にいない=休みという価値観で仕事をしています。その価値観を叩き込まれた人たちが、『いつでもどこでも働ける』ようになるためには、啓発し続けていかないと、結果的には習慣化までには至りません」(小柳津)
日本マイクロソフト 小柳津 篤
日本マイクロソフトでは生産性の向上と社員の満足度が上がってはじめて、この取り組みが好循環になったと判断している。例えば、総労働時間は過去に比べても下がり、ほとんど残業していない状態であるという。小柳津が入社した23年前は、月に何百時間残業するのが当たり前の時代だった。しかし、今でも社員はハードワークをしているが、その勤務時間は短いそうだ。

23年前の働き方は、時間を投じれば進捗できる仕事であった。しかし、今は非常に難しい・正解のないビジネス課題に取り組んでいるため、時間を投じたからと言って進捗することは保証されていない。むしろ、心身共に健全であり、新しいアイデアやさまざまな人たちとの価値創造に携わる必要があるだろう。そのために、総労働時間を下げることは非常に重要になるのだ。

働き方改革というのは、いったい誰のため、何のためのものなのだろう。「残業を削減しなければいけない」、「時短の人たちが辞めないようにしたい」といった、対症療法的な意味合いでの働き方改革は、本質的ではないのかもしれない、と今回の講演で感じたところである。日本マイクロソフトは、1人当たりの生産性を上げる、つまり1人当たりの売上を上げるためにも、どうコラボレーションしていくかに焦点が当てられているのだ。そもそもの目的が「労働時間を下げたい」というわけではない。

そして、「いつでもどこでも」を実現するためには、チームやプロジェクト内での関係づくりを無視してはいけないということがよくわかる。コラボレーションを生み、困難なビジネス課題に立ち向かうためには、お互いの価値観やベネフィットを理解したうえで、たとえどこにいても仕事の進捗に差し支えないような強固な関係づくりが重要なのであろう。

取材・文:池田 優里

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